2024年に初年度産駒がデビューし、2025年のクラシック戦線に向けて注目を集めているフィエールマンについて、その特徴と傾向を解説します。
稀代のステイヤーでありながら、究極の瞬発力を併せ持った父の個性がどう産駒に伝わっているのか、紐解いていきましょう。
血統背景
| ディープインパクト | サンデーサイレンス | Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| ウインドインハーヘア | Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| リュヌドール | Green Tune | Green Dancer | Nijinsky |
| Green Valley | |||
| Soundings | Mr. Prospector | ||
| Ocean’s Answer | |||
| Luth d’Or | Noir Et Or | ラインゴールド | |
| Pomme Rose | |||
| Viole d’Amour | Luthier | ||
| Mandolinette |
父ディープインパクトに、母の父はニジンスキー系のGreen Tuneという組み合わせです。 母系はフランスの重賞勝ち馬が多く名を連ねる欧州血統で固められており、これがフィエールマンに「日本離れした底力」と「豊かなスタミナ」を授けました。ディープ系後継種牡馬の中でも、ここまで母系が欧州の重厚な血で固められているタイプは珍しく、他のディープ系種牡馬(キズナやコントレイルなど)とは異なる独自進化を遂げた血統構成と言えます。
現役時代
フィエールマンの現役時代は、一言で表せば常識を覆し続けた天才ステイヤーです。通算成績は12戦5勝。出走した全てのレースで上位人気に支持され、その類まれな身体能力で記録と記憶に残る走りを披露しました。
デビューは3歳1月と遅れましたが、4戦目というキャリア最少記録で菊花賞を制覇。その後も4歳時と5歳時に天皇賞(春)を連覇するという金字塔を打ち立てました。特に5歳時の連覇は、前年の有馬記念からのぶっつけ本番という長距離戦の常識を打ち破るローテーションでの勝利でした。
彼の凄みは長距離だけでなく、2000メートルの頂上決戦でも最強クラスと渡り合った点にあります。5歳時の天皇賞(秋)では、史上最多の芝G1・8勝を挙げたアーモンドアイに対し、上がり3ハロン32秒7という驚異的な末脚で肉薄。結果は半馬身差の2着でしたが、距離短縮でも世界トップクラスと遜色ない瞬発力を持っていることを証明しました。
4歳時にはフランスの凱旋門賞にも挑戦しました。現地の重い馬場に苦しみ最下位に敗れましたが、帰国後の有馬記念ですぐさま4着と健闘。輸送や遠征を乗り越える精神的なタフさを見せました。体質への配慮から生涯一度も中3週以内の間隔で使われることがありませんでしたが、一戦一戦に全てを懸ける研ぎ澄まされたアスリートのような現役生活でした。
主戦のルメール騎手が「最もスタミナがある」と絶賛した折り合いの良さと、スイッチが入った際の爆発力。長距離適性と究極のキレ味という、相反する才能を同居させた稀有な名馬として、2020年には最優秀古牡馬にも選出されています。
得意コース・条件
産駒は父から継承したスタミナと持続力、そしてディープインパクト系らしいしなやかな末脚を武器としています。そのため、直線の長いコースや距離が延びる条件で真価を発揮する傾向が明確です。
主戦場となるのは芝の中長距離で、特に東京、京都、新潟といった直線の長い広々としたコースが絶好の舞台です。道中はゆったりと運び、直線の瞬発力勝負に持ち込む形を得意としています。一方で、父が長距離砲でありながら天皇賞(秋)で極限のキレ味を見せたように、産駒も芝2000メートル前後での加速力が目立ちます。また、母系の欧州血統由来の底力があり、開催が進んで時計のかかり始めたタフな芝や、スタミナが要求される洋芝の札幌・函館でもパフォーマンスを落としにくいのが強みです。
馬券的な狙い目は距離延長時です。マイル前後ではスピード負けしていた馬が、2000メートル以上の距離に延びた途端に追走が楽になり、本来の末脚を繰り出すシーンが多く見られます。また、少頭数で展開が落ち着くレースや、外枠からスムーズに加速できる状況では信頼度がさらに上がります。基本的には芝専用の血統であり、ダートよりも芝、内回りよりも外回り、そして短距離よりも中長距離が、フィエールマン産駒のポテンシャルを最も引き出す条件と言えます。
苦手コース・条件
フィエールマン産駒の苦手コースと条件について解説します。
産駒は父譲りのしなやかさとスタミナを武器にする反面、加速に時間を要する「エンジンの掛かりの遅さ」や、母系の欧州色が強く出たことによる「瞬発力の限界」が弱点として現れやすい傾向があります。
まず明確に苦手とするのは、芝1200メートルから1400メートルの短距離戦です。本質的にゆったりとした歩幅で走る馬が多く、スタート直後から激しく急かされる展開には対応しきれません。スピードの絶対値や追走力で後手に回ることが多く、本来の末脚を繰り出す前にレースが決着してしまうケースが目立ちます。また、ダート適性も現時点では非常に低く、パワーよりも芝での軽やかさが持ち味なだけに、砂の深い馬場では大きくパフォーマンスを落とします。
コース形態では、中山競馬場や阪神競馬場の内回りコースといった、直線の短い小回りコースを苦手とする産駒が多いです。コーナーで機敏に立ち回る器用さよりも、広い直線でじわじわと加速することを得意とするため、勝負どころで他馬に置かれてしまうシーンが見られます。特に、道中で息の入らないハイペースの持続力勝負や、直線の急坂で一瞬のキレを求められる展開では、父の長所であるスタミナが活きにくいのが現状です。
馬券的な注意点としては、内枠での競馬や多頭数の混戦です。馬群の中で揉まれてスムーズな加速を妨げられると、精神的な幼さも相まって脆さを見せることがあります。外から伸び伸びと走れる環境がない場合、人気を裏切るリスクが高まるため、条件が噛み合わない状況での過信は禁物と言えます。
成長型の特徴
フィエールマン産駒の成長型の特徴について解説します。
フィエールマン産駒は、父自身が3歳の1月デビューという遅咲きながら頂点に昇り詰めたように、じっくりと時間をかけて素質を開花させる晩成傾向が極めて強いのが特徴です。
現代の日本競馬では2歳の早い段階から完成度を求める種牡馬が多い中、フィエールマン産駒は「2歳戦はあくまで教育の場」と割り切る必要があるほど、奥手なタイプが主流です。デビュー当初は馬体が細く、精神的にも幼さが目立ち、スピード負けする場面も少なくありません。しかし、3歳の春から秋にかけて骨格がしっかりとし、トモの筋肉量が増してくると、別馬のような力強い走りに変貌を遂げます。
特に、夏を越してからの成長力には目を見張るものがあります。初年度産駒も、2歳秋までは勝ち上がりに苦労したものの、冬から3歳春にかけて距離が延びるにつれて次々と勝ち上がる馬が増えており、この傾向は今後も定着していくと見られています。心肺機能が非常に高いため、体が出来上がってからは使い込んでも疲れが残りにくく、タフに走り続けながら経験を糧にする強みを持っています。
また、古馬になってからさらにスタミナと精神力が噛み合うことで、天皇賞(春)のような長距離の頂上決戦に挑むような、息の長い活躍が期待できる成長曲線を描きます。一戦ごとの着順に一喜一憂するのではなく、馬体のボリュームアップや歩様の力強さの変化を長期的に見守ることで、その真価を見極めることができる血統と言えるでしょう。
産駒はやや苦戦中
2024年に産駒がデビューし、2025年のクラシックシーズンを戦っているフィエールマンですが、現状の成績を見ると「やや苦戦中」という評価を免れない数字が並んでいます。期待された初年度産駒の勝ち上がり率は2025年12月時点で30%台に留まり、同時期にデビューしたサートゥルナーリアなどのライバル種牡馬と比較すると、爆発力という面で一歩後退している印象は拭えません。
苦戦の主な要因は、父の最大の特徴であった「晩成型かつ長距離適性」が、現代の日本競馬のトレンドである「早期のスピード決着」と噛み合っていない点にあります。産駒の多くはデビュー戦や未勝利戦でのスピード不足が顕著で、短距離やマイルでは追走だけで体力を消耗してしまう場面が目立ちます。また、重賞戦線でも「あと一歩」のところでキレ負けするシーンが多く、父のような極限の瞬発力を受け継いだ大物の出現が待たれている状況です。
しかし、この「苦戦」は血統背景から予測されていた事態でもあります。父フィエールマン自身がそうであったように、産駒の本領発揮は3歳の夏を過ぎ、距離が2000メートルを超える番組が増えてからとなります。実際に2025年後半に入り、1勝クラスや中長距離の特別戦で掲示板を確保する馬が増え始めており、成長とともに成績が上向く兆しも見せています。現在の沈黙は、来るべき「長距離界の席巻」に向けた力を蓄える期間と言えるのかもしれません。
代表産駒
フォルテム
牡 鹿毛
母:マダムアグライア
母父:ケイムホーム
調教師:千葉直人
馬主:ノルマンディーサラブレッドレーシング
生産者:ディアレストクラブ
主な戦績:摩周湖特別(2勝クラス)
インパクトシー
牡 黒鹿毛
母:イリリア
母父:ダノンシャンティ
調教師:大竹正博
馬主:中村昭博
生産者:北田剛
主な戦績:ラジオNIKKEI賞3着
ダノンセンチュリー
牡 鹿毛
母:シャンブルドット
母父:Lope de Vega
調教師:萩原清
馬主:ダノックス
生産者:ノーザンファーム
主な戦績:2勝クラス
総評
フィエールマンは、初年度産駒がデビューした2024年から2025年にかけて、ディープインパクト系種牡馬の中でも「独自の進化を遂げたスタミナ後継」としての評価を確固たるものにしました。
最大の魅力は、父が証明した「長距離を走り切るスタミナ」と「中距離G1でアーモンドアイを追い詰めた瞬発力」が高い次元で産駒に伝わっている点です。当初は、ステイヤー血統ゆえの「重さ」や「スピード不足」を懸念する声もありましたが、蓋を開けてみると、芝の中長距離を中心に、他系統がバテるような展開でしぶとく末脚を伸ばす産駒が続出しています。
特筆すべきは、ノーザンファーム生産馬以外からも勝ち上がり馬が出ており、繁殖牝馬の質を問わず一定の「キレ」を産駒に授けている点です。複勝回収率が100%を超える時期があるなど、馬券的にも「人気以上に走る実直さ」がファンに高く評価されています。また、懸念されていた体質の弱さについても、産駒たちは使い込みながら力をつける逞しさを見せており、父の「一戦入魂」型とは異なる、堅実な競走生活を送れるタイプが多いのも特徴です。
今後は、クラシックディスタンス(2400m以上)での重賞制覇や、父が得意とした天皇賞(春)のような伝統的な長距離戦での主役候補を輩出することが期待されています。瞬発力偏重の現代競馬において、スタミナという武器で穴をあける「逆張りのエース」として、その存在感は今後さらに増していくでしょう。

