日本競馬界に衝撃を与えた「未完の大器」シルバーステート。その全弟として生を受けたヘンリーバローズは、兄が証明した圧倒的なスピードと身体能力をそのまま受け継ぐ、血統の結晶とも呼べる存在です。
現役時代はわずか2戦、伝説となった中京の伝説の新馬戦でワグネリアンと接戦を演じ、次走で圧勝した直後に怪我でターフを去りました。しかし、その底知れないポテンシャルへの評価は揺るぎなく、兄が種牡馬として大成功を収めたことで、ヘンリーバローズへの期待は確信へと変わっています。
父ディープインパクトのしなやかさに、母シルヴァースカヤが持つロベルト系の力強さが完璧に調和したこの血統は、現代の日本競馬、特に芝の中距離戦線において「最も信頼できる血」の一つです。兄の背中を追い、そして超えようとするヘンリーバローズ産駒の適性と魅力を詳しく紐解いていきましょう。
血統
| ディープインパクト | サンデーサイレンス | Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| ウインドインハーヘア | Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| シルヴァースカヤ | Silver Hawk | Roberto | Hail to Reason |
| Bramalea | |||
| Gris Vitesse | Amerigo | ||
| Matchiche | |||
| Boubskaia | Niniski | Nijinsky | |
| Virginia Hills | |||
| Frenetique | Tyrant | ||
| Femina |
ヘンリーバローズの最大の特徴として、全兄にシルバーステートがいる点が挙げられます。重賞未勝利の本馬が種牡馬入りすることができた理由としても、兄シルバーステートが種牡馬として人気を集めていたことが大きいと言えるでしょう。
種牡馬としても兄シルバーステート同様に、直線で切れ味を発揮するタイプより、先行してしぶとく粘り込みを図るタイプが主流となって来そうです。
基本的にはダートより芝で強みを発揮し、直線の長い東京等よりは小回りのローカル開催に強いタイプが多く、洋芝も得意とします。また、意外にも道悪では結果を出せていません。
現役実績
デビュー戦は単勝1.7倍の一番人気に指示されるも、ワグネリアンの2着と勝ち切ることができませんでした。とはいえ、後のダービー馬相手にタイム差なしの好勝負を演じた点では、間違いなく重賞級のポテンシャルを秘めていたと言えるでしょう。
その証拠に続く2戦目の未勝利戦では、単勝1.1倍の圧倒的1番人気に答え圧勝の逃げ切り勝ちを収めました。残念ながら脚部不安により、この後出走することは叶いませんでしたが、兄シルバーステート同様に非常に高い素質を見せていたことから種牡馬入りすることが決定しました。
得意コース・条件
ヘンリーバローズ産駒は、父ディープインパクトに、ロベルト系の粘り強さを秘めた母シルヴァースカヤが組み合わさった、全兄シルバーステート同様の非常に高い身体能力を引き継いでいます。
最大の武器は、芝のマイルから2000m前後における、先行力とスピードの持続性です。全兄シルバーステートの産駒と同様に、一瞬のキレ味というよりは、「非常に高いスピードを維持したまま押し切る能力」に長けています。このため、直線の長いコースはもちろん、先行力を活かせる小回りコースでも高い適性を示します。
また、母系から受け継いだパワーがあるため、パンパンの良馬場だけでなく、多少時計のかかる馬場や、洋芝(札幌・函館)も得意とする傾向があります。筋肉の質が非常に強く、踏み込みがパワフルな産駒が多いため、坂のあるコースやタフな馬場コンディションでも、最後まで脚を使い切れるのが大きな強みです。
まとめると、ヘンリーバローズ産駒の「買い」の条件は、芝のマイル〜中距離で、先行して持続力を活かせる展開、あるいはパワーが要求される馬場コンディションとなります。
苦手コース・条件
ヘンリーバローズ産駒は、非常に高いスピードの持続力とパワーを武器とする反面、柔軟性や繊細さが求められる条件を苦手とする傾向があります。
まず、芝の長距離戦(2400m以上)は、血統的な気性の激しさや前向きすぎるスピードが災いし、スタミナを温存しにくいため不得意とします。本質的にはマイラーから中距離(2000mまで)のタイプが多く、道中で折り合いを欠くと、直線の長いコースであっても終盤に失速するケースが目立ちます。
次に、究極の瞬発力勝負(スローペースからの上がり3ハロン勝負)も、決して得意ではありません。兄のシルバーステート産駒と同様に、一瞬の加速力よりも「高い巡航速度での押し切り」が持ち味であるため、道中が超スローペースになり、ラスト300m付近で一気にギアを入れ替えるような展開では、瞬発力特化型にキレ負けすることがあります。
馬場状態については、パワーがある一方で、極端に砂の深いダート戦は適性外となる馬が多いです。芝でのスピードが勝っているため、未勝利戦などでダートに替わっても、決定的な武器を使えずに苦戦する傾向があります。また、精神的に非常に前向きで激しい気性を持つ馬が多いため、初場所や長距離輸送などでテンションが上がりすぎた場合、本来の能力を発揮できずに終わるという弱点も考慮する必要があります。
まとめると、ヘンリーバローズ産駒にとっての苦手条件は、芝の長距離、緩い流れからの瞬発力勝負、そして砂の深いダートコースとなります。
成長型の特徴
ヘンリーバローズ産駒の成長曲線は、父ディープインパクト譲りのスピードと、母系由来の力強い骨格が融合し、「早期完成度」と「成長の持続」を両立させているのが特徴です。
最大の魅力は、2歳の早い時期から馬体がしっかりと出来上がる仕上がりの早さにあります。全兄のシルバーステートと同様に、若駒のうちから古馬のような筋肉の張りと強い踏み込みを見せる産駒が多く、新馬戦や未勝利戦において、その圧倒的な身体能力だけで勝ち上がれる即戦力としての強みを持っています。
しかし、単なる「早熟型」で終わらないのがこの血統の奥深さです。3歳から4歳にかけて、精神的な成長とともにパワーがさらに強化されるため、一度調子を掴むと連勝街道を突き進むような勢いを見せることがあります。筋肉の質が非常に強固なため、一度完成の域に達すると、能力の減退が少なく、古馬になっても一線級で戦い続ける息の長い活躍が期待できます。
一方で、非常に前向きで激しい気性を内包しているため、肉体の成長に対して精神面が追い付かず、若駒の頃はコントロールに苦労する場合もあります。そのため、「肉体的な完成度は早いが、精神的な成長によってさらにパフォーマンスが安定・向上していく」という、段階的な成長を辿るのがヘンリーバローズ産駒の典型的なパターンと言えます。
総評
ヘンリーバローズは、伝説的なスピードを見せながら怪我に泣いた「未完の大器」シルバーステートの全弟であり、父ディープインパクトの最高傑作の一つと言える「シルヴァースカヤの血」を次世代へ繋ぐ重要種牡馬です。
最大の魅力は、ディープインパクト産駒らしいスピードに、ロベルト系のパワーと持続力が完璧に融合している点にあります。産駒は、単なるキレ味勝負にとどまらない「力強さを伴った先行押し切り」を真骨頂としており、現代の日本競馬で最も賞金を稼ぎやすいマイルから中距離において、極めて高い計算が立つ資質を備えています。
全兄シルバーステートがすでに種牡馬として大成功を収めていることは、この血統構成が日本の環境に最適化されていることの証明です。ヘンリーバローズ自身は現役時代の出走数が少なかった分、馬の消耗が少なく、その類まれなる身体能力と爆発的なスピードの遺伝子が産駒にストレートに受け継がれています。
特に、仕上がりの早さと、タフな馬場をも跳ね返すパワーは、多くのディープインパクト系種牡馬の中でも際立った個性です。芝の中距離戦線において、常に上位を賑わせる「王道の安定感」と「重賞級の爆発力」を秘めた一頭と言えます。
兄の代からのファンだけでなく、確実性を求める馬主や馬券検討者にとっても、ヘンリーバローズは「芝の中距離における最有力な選択肢」として、今後さらに存在感を高めていくことになるでしょう。

